※本記事は都立戸山高校山岳部OB会HPにて公開していたコンテンツをサイト閉鎖に伴い、一部改定して本サイトにて公開しているものです。学部生時代に書いたものなので表記の甘さなどはご理解下さい。
他のメンバーみたいに真面目っぽい記事を書いてみた Jan.23.2021
警告:これは由緒正しき正規分布帝国の布教活動です。ノンパラメトリック自治領の方は(以下略)
※わかりやすさ重視なので厳密性はゆるゆるです。素人がふわっと書いてるだけなので絶対に間違いが入っています。決して教科書ではないのでご了承ください。
※一応t検定の基礎あたりまでを勉強している前提で書いてますが、筆者も数学は苦手なので、えっと、、、これ以降の内容が電波系の戯言だと感じなかったら大丈夫です。
世界の始まり、由緒正しき正規分布皇帝は”平均あれ”と言われた。
すると人々の目は開かれ、あらゆる事物の平均が目に映った。人々は物事の本質が見えたと喜んだ。
しかし、なぜ平均値がモノゴトの本質を表すのか?それはここが中心極限定理に守られた由緒正しき正規分布帝国だからである。
時は流れ、我々は今でもこの言葉に憑りつかれている忠実である。
これを我々はこう表しました。
$$ Y = \mu + \epsilon $$
まず、世界全体の平均があり、世の全てのモノゴトは平均からの距離、すなわち誤差の大きさで説明される。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
そりゃあうまくいかねえわけです。
そこで宗教革命!
効果なるものを唱えたヤツがおるわけです。
$$ Y = \mu + \epsilon $$
人々はAを基準にモノゴトをグループに分け始めました。そしてグループごとの平均でグループどうしを比べ始めました。こうやって世界は分断されてしまいました。
でもグループの平均の違いをどう考えましょうか?
どれくらい違いがあれば私はあなたと違うんですか?絶対に違うって?あなたはいっつもそうよね…
平均ってなんでしょうか?
例えば任意の2つの実数を足し合わせて2で割ると、2つの値のバラツキは相殺されますよね。もし元の値がわからなくなったら平均値だけ見ても元の2つの値はわかりません。当たり前の話ですね。
$$ 平均=4 → (2, 6), (3, 5), (1, 9)・・・無限に存在 $$
例えば、\( 平均=4 \) を考えたとき、もし元の値が\( (3, 5) \)ならだいたい4ぐらいだって言っても良さそうです。でも、もし元の値が\( (-2006, 2014) \)とかだと、だいたい4ぐらいって言うのは間違ってはいないものの、あんまり実用的じゃないですよね。
値のバラツキが大きいほど、総平均だけで語る現実性はなくなっていきます。そこで世界をグループに分けてみたのです。
1つのグループの平均を取ると、グループとは無関係なバラツキは全部相殺されます。平均で見ると、グループが全体からどれくらいズレているかがわかります。ごく当たり前の話をしているだけなのでまだ難しく考えないで下さいね。
各グループの平均をあつめてくると、グループとは無関係の影響を全部相殺して、純粋にグループだけのバラツキがわかります。
このグループのバラツキが大きければグループによって違いがありすぎる、すなわち世界を総平均だけでは語れないと言うことができます。
逆にグループ分けなんて無意味ならグループのバラツキは大きくないはずですよね?そんなの世界に不要な分断と対立を生むだけです。
そこでこのバラツキをどう比べようか、って話なんですが、、、バラツキを指標化した値は皆さんご存じ分散ですね。分散でモノゴトを評価する分析法なのでANOVA(分散分析、analysis of variance)と言います。
one-way between ANOVA
リアルな数字を登場させてみましょう。
例えば、Itamae・ぽ・Johsonの3人にそれぞれチュパカブラの卵を3つずつ渡して育ててもらって、1年後に体長を測って成長を見たとしましょう。
誰が育てたかによってチュパカブラの成長には差があるのでしょうか? one-way between ANOVA(対応の無い一元配置分散分析)で分析してみましょう。
IV (independent variable, 独立変数/説明変数) | 飼い主 (水準はItamae, ぽ, Johsonの3条件) |
DV (dependent variable, 従属変数/目的変数) | チュパカブラの体長 (長さ㎝、比尺度) |
実際のANOVAに入る前に\( Y = \mu + A + \epsilon \)のモデルの意味を図示して確認してみましょう。\( Y = \mu + A + \epsilon \)は行列で構成される式なので9匹のチュパカブラについて9本の関係式が成り立ちます。
\( Y \ = \ \mu + A + \epsilon \) |
---|
\( 113 = 120 – 2 – 5 \) |
\( 125 = 120 – 2 + 7 \) |
\( 116 = 120 – 2 – 2 \) |
\( 106 = 120 – 6 – 8 \) |
\( 120 = 120 – 6 + 6 \) |
\( 116 = 120 – 6 + 2 \) |
\( 133 = 120 + 8 + 5 \) |
\( 124 = 120 + 8 – 4 \) |
\( 127 = 120 + 8 – 1 \) |
下の図では例として、Johsonの124㎝のチュパカブラに注目しています。でも各点について一つずつ上の式をあてはめてみると\( Y = \mu + A + \epsilon \)の全体像が見えてきます。
※図の中の正規分布のPDFの図は模式的に置いたもので、形や大きさは正確ではない。特に黒のプロットとそれ以外のプロットでは前提条件が異なる点に留意されたし。そもそも、それ以前に正規分布に従うというのはただの前提であり、それが本当に正規分布に従っているのかどうかは別問題である。考えなしにむやみになんでも正規分布を仮定していいわけではない。
これがGLM(general linear model, 一般線形モデル)としてのデータの捉え方です。GLMは正規分布帝国の最強兵器ですから、前提条件としてバラツキが全て正規分布に従います(※)。
以降、上の図のイメージを念頭に置きながら読んでいくと少しは理解しやすくなると思います。
まずは分散で評価するということなので、まずはデータの各値を下のように変形します。
$$ Y = \mu + A + \epsilon $$
普通の分散の定義は\( (偏差) = Y – \mu \)の二乗の合計をN数で割ることです。
しかし今回はt検定で使った不偏分散と同じで、データ一つあたりのバラツキは単純にNで割るだけでは出せません。
なのでデータ一つあたりで考えるのは後にして、まずはバラツキの合計量で見ていきしょう。
モデルの各項のバラツキは、各値を二乗して合計した二乗和で考えます。この二乗和のことを別名SS(偏差平方和、sum of squared deviations/squared sum)とも言います。
$$ \sum (Y-\mu)^2 = \sum A^2 + \sum \epsilon^2 $$
まず主効果Aを条件ごとにまとめて(これをプールすると言います)、それぞれで平均を出します(水準平均)。
\( 総平均\mu = 120 \) |
---|
\( 水準平均(Itamae) = 118 \) |
\( 水準平均(ぽ) = 114 \) |
\( 水準平均(Johson) = 128 \) |
次に総平均μと水準平均の差分をとってAを出します(偏差)。これは言い換えればチュパカブラの個体差を無視した時、飼い主によってμからどれくらい変動するか、という値です。
\( A_1 = 118 – 120 = -2 \) |
\( A_2 = 114 – 120 = -6 \) |
\( A_3 = 128 -120 = 8 \) |
残差\( \epsilon \)は\( \epsilon = Y – \mu – A \)で定義されます。モデルの\( \epsilon \)以外の項が全部埋まったあと、最後に丁度良く等式が成立するように都合が良い数が入ります。だから”残された差”で残差と呼ばれていて一匹ずつ違う値になります。
ここで、モデルと対比させながら考えます。
$$ Y = \mu + A + \epsilon \leftrightarrow SS(total) = SS(A) + SS(\epsilon) $$
-
- 上図左:もし条件による差が全く影響していなければ(=誰がチュパカブラを育てても関係なく同じくらいの大きさになるなら)、条件間の差が出ずに条件平均は総平均と全く同じになるはずです。残る要因はチュパカブラの個体差だけです。
$$ Y = \mu+\epsilon \implies SS(A)=0, \ SS(total)=SS(\epsilon) $$
-
- 上図右:もしデータ内のバラツキが全て条件による影響Aだけで説明される(=チュパカブラがどれくらい大きくなるかは誰が育てたかだけで決まる)としたら、各条件内では全く同じ値を取っているはずです。チュパカブラを育てた人が同じなら必ず同じ大きさに成長します。
$$Y = \mu+A \implies SS(total)=SS(A), \ SS(\epsilon)=0$$
よって、SS(total)を構成するSS(A)とSS(ε)を比べて主効果Aの強さを評価しようという考え方をします。(2つの比→効果量:後述)
でも、SS(A)とSS(ε)を直接比較するはできません。上の図にもあるように主効果の強さによってSS(total)の大きさが変化しますよね?
普通の分散ならSS(=全体のバラツキ量)をNで割れば一匹あたりのバラツキがわかって他のサンプルの分散と比較できます。これが標準化です。
でもSS(A)を標準化するには何で割ればいいか、、、と考えていると普通ならAの水準の数で割れば良さそうです。
ここで最初の方で触れた不偏分散を思い出してください。t検定で出てきた分散の推定値はNではなく(N-1)で割ってましたよね?
そうです、Nのかわりにdf(自由度)で割るのです。dfはそれぞれの項におけるN数的な存在なのです(これまた誤解を生みそうな表現ですが…)。
まとめ:SSをdfで割ると不偏分散が出ます。これをMS(mean of squares, 平均平方)と呼んでます。
\( SS/df = MS \) |
---|
\( MS(A)=SS(A)/df(A)=312/2=156 \) |
\( MS(\epsilon)=SS(\epsilon)/df(\epsilon)=224/6=37.33 \) |
SS(A)とSS(ε)を標準化してMS(A)とMS(ε)とすることでこの2つを比べることができるのです。さて具体的にどう比べましょうか。
ここで思い出してください。ここは由緒正しき正規分布帝国です。全ての項について正規分布だと言えるのです(拍手)。
正規分布するサンプルの分散(自由度df₁)と、同じく正規分布のサンプルの分散(自由度df₂)の比をとったらなんか決まった確率分布になりそうじゃないですか?それがF分布です。
はい、長くなるのでかなり説明を端折ってます(※)。端折ってしまったのでt検定は独立変数が2水準しかない特殊形のANOVAなんですよ~の話もできません泣。興味がある方は今までの説明を二人の場合で考えてみてください。最後に\( t(df)=\sqrt{F(1,df)} \)でつながるはずです。
F分布はF値(=分散の比)のpdf(確率密度関数)です。だから\( MS(A)/MS(\epsilon)=F \)を出してF分布に照らし合わせれば分布確率がわかります。t検定の時と全く同じ考え方ですが、ANOVAの場合の対立仮設は\( MS(A)>>>MS(\epsilon) \)なので上側だけ見る片側検定です。
※注意:今回の例は上図と自由度が違う
$$ F = MS(A)/MS(\epsilon) = 156/37.33 = 4.18 \sim F(2, 6) $$
有意水準をα=5%とするとF分布表より
$$ F_{\alpha=0.05}(2, 6)=4.76 > 4.18 $$
飼い主の違いによる体長には有意な差は認められませんでした(※)。
以上、one-way between ANOVA おしまい!
、、、と安心する前に
統計的仮説検定は考え方からして根本的に不完全な分析法です。特にN数に対して敏感です。t検定でCohen’s dを見たようにANOVAでも効果量を必ず確認しましょう。
ANOVAでまず出てくる効果量は分散説明率、η²です。
$$ \eta^2 = SS(A) / SS(total) $$
式の形を見れば意味は一目瞭然です。ちなみにチュパカブラの例で計算してみるとη²=.58、かなり強いです。
しかし、η²は完璧ではありません。
もし仮にIVが増えてしまったらどうなるでしょうか?モデルによってη²の解釈が相対的に変わってしまうのです。
そこで偏η²参上。
$$ Partial \ \eta^2 = SS(A) / {SS(A)+SS(\epsilon)} $$
これでモデルに依存しない効果量になりました。ちなみにone-way between ANOVAのモデルにはそもそも主効果が一つしかないので、η²=偏η²になります。
結論:効果量も大きいので主効果は無視できない。
晴れて分析おしまい!
さてここで、もし仮に、チュパカブラの例でANOVA有意となった場合を考えてみましょう。この時、飼い主によって違いが出るとまでは言えますが、飼い主の中で具体的に誰のチュパカブラが他の誰かより大きく成長するのかはわかりません。
そこで多くの場合、誰と誰の間に差があるのかを突き止めるためにpost-hoc(事後検定, 多重比較)というものを行います。でも、ただt検定で比較を繰り返していくと、比較を重ねるごとにαエラーがかけられてしまいます。
例えば、チュパカブラの例で飼い主の総当たり比較を行うために₃C₂=3回繰り返しt-testを行うとします。
比較① | Itamae – ぽ |
比較② | ぽ – Johson |
比較③ | Johson – Itamae |
t検定1回の有意水準を\( \alpha_0 = 0.05 \)とすると、3回繰り返した後の全体のαエラーの確率は
$$ 1 – \alpha = (1 – \alpha_0)^3 = (1 – 0.05)^3 = 0.86 $$
$$ \therefore \alpha = 0.14 $$
と10%以上になってしまいます。
なのでこれを補正するために様々な手法が考案されてきました。多重比較についてはまた後で言及します。
two-way/within ANOVA
one-way between ANOVA がわかればtwo-wayだろうがwithinだろうが基本はどれも同じです。なので細かいことは教科書に投げて今回は大まかなことだけをかる~く触れます。
どんなANOVAも本質的には全く同じ操作をします。
- モデルを考える
- 各項のSS→MSを求める
- 効果のMSをMS(ε)で割って効果ごとにF値を求める
- 求めたF値でF検定をする。(+偏η²も見る)
two-way between ANOVA(対応の無い二元配置分散分析)は2つのIV、AとBそれぞれの効果、それに加えてAとBの交互作用というものを考える必要があります。
$$ Y – \mu = A + B + AB + \epsilon $$
交互作用ABというのはAとBの相乗効果のことです。プロフェッサーの説明↓
風邪をひいたとき、風邪薬を飲みますね。市販の風邪薬にはエフェドリンとリン酸ジヒドロコデインって麻薬成分が含まれてるんだけど、それぞれ単独で飲んでも大したことはないのが、あわせて呑むとハイになれるんですね~。
いやあ、意味わかんないですね…でもOTC薬の量で実際に効果出るのかは筆者も気になるところではあります(笑)。
ちなみに交互作用は強く出るだけ以外にも拮抗する形のこともあります。例えば、テトロドトキシンとアコニチンを同時に摂取すると効果が拮抗してすぐには死なないよ、みたいな話です。
SSを求めるのも効果の数が増えただけでやることはone-wayと同じです。ひとつひとつ水準ごとにプールして平均を出す、ってのを効果ごとに行います。
\( A = \{ A_1,\ A_2,\ A_3, \dots \} \) |
\( B = \{ B_1,\ B_2,\ B_3, \dots \} \) |
\( A \times B = \{ A_1 \cap B_1,\ A_1 \cap B_2, \dots ,\ A_2 \cap B_1,\ A_2 \cap B_2, \dots \} \) |
先ほどの例をちょっと手を加えて、3人にチュパカブラを3匹ずつ育ててもらうかわりに1人につき、メキシコ産のチュパカブラ2匹とチリ産のチュパカブラ2匹の計4匹を育ててもらうことにしました。IVは飼い主(効果A)と産地(効果B)です。
モデルのうち、A + B + AB の部分だけを引っ張り出すと下図のようになります。ABのdfはAとBのdfをかけると出てきます。
$$ Y – \mu = A + B + AB + \epsilon $$
$$ SS(total) = SS(A) + SS(B) + SS(AB) + SS(\epsilon) $$
総平均 | \( \mu=120 \) |
Aの水準平均 | \( \mu_{itamae} = \mu – 2 = 118 \)
\( \mu_{ぽ} = \mu – 6 = 114 \) \( \mu_{Johson} = \mu + 8 = 128 \) |
Bの水準平均 | \( \mu_{メキシコ} = \mu – 1 = 119 \)
\( \mu_{チリ} = \mu + 1 = 121 \) |
ABの水準平均 | \( \mu_{itamae,メキシコ} = \mu -4.5 = 115.5 \)
\( \mu_{itamae,チリ} = \mu + 0.5 = 120.5 \) \( \mu_{ぽ,メキシコ} = \mu – 7 = 113 \) \( \mu_{ぽ,チリ} = \mu – 5 = 115 \) \( \mu_{Johson,メキシコ} = \mu + 8.5 = 128.5 \) \( \mu_{Johson,チリ} = \mu + 7.5 = 127.5 \) |
これであとの操作は全く同じです。
- A, B, AB, εのSS→MSを求める
- A, B, ABのMSをMS(ε)で割って3つのF値を求める
- 求めたF値で1つずつF検定をする。(+偏η²も見る)
以上、two-wayおしまい!
within ANOVA(対応のある分散分析)については、実は普通のbetween ANOVAのモデルに効果をもうひとつ追加しただけです。被験者をIVとして追加して、一人ひとりの被験者を条件と捉えているだけなのです。
$$ Y = μ + A + S + ε $$
one-way within ANOVAでは上のように被験者効果Sというものが加わります。被験者効果と言っていますが、この先の取り扱いはtwo-way between ANOVAと全く同じです。
交互作用ASは存在します。実はone-way within ANOVAの場合は交互作用ASは残差εに一致します。だからY=μ+A+S+ASと書いてε=0とすることもできます。
ちなみにone-way betweenも同様に考えると残差εはチュパカブラの個体差だけが影響しているバラツキなので実は誤差ε=被験者効果Sなのです。なのでtwo-way within ANOVAも残差の意味が違います。
これは各項の自由度をひとつずつ考えてみると納得できます。実は自由度について考えるというのは、”SSを切り分ける”行為についてすご~く本質的な議論に繋がるのですが、その話は教科書に投げます。
以上、within おしまい!
Contrast
さて、ANOVAで有意となった場合、普通はpost-hoc(事後検定、多重比較)をします。UMINのサイトにわかりやすくまとめてあるのでここでは説明しません。
http://plaza.umin.ac.jp/\~beehappy/stat/com-ph.html#post-hoc
それにしてもさすが臨床試験やりまくってるだけありますね~。
でも今回は違うアプローチを紹介します。
ここから先の内容は残念ながら日本国内ではあまり浸透していません。
ですが!
この手法は実験統計の世界ではメジャーな存在です。 そして大学の実験計画法の授業では必ず学びます(少なくとも欧米では)。
それがコントラストコーディング。
それでは、まず根本的なところから考えてみましょう。
ANOVAはGLM(一般線型モデル)の特殊形です。post-hoc法が論理的に誤り、というのはANOVAの回帰モデルを全く無視した手続きを無理やり追加しているからです。
チュパカブラの例を考えると、もしpost-hocで有意水準を厳しめに調整したt検定を3回行うと(Bonferroni法)、3つの比較のSSの合計値は元のモデルのSS(A)の1.5倍に膨れ上がって一致しません。
- ANOVA:このIVは明らかにDVに強い影響がある(効果レベルの視点)
- Bonferroni:この群とこの群には明らかな差がある(水準レベルの視点)
これらはそれぞれ独立した無関係な統計手法ですが、post-hocを使うとこの全く異なる2つの分析をあたかも1つの分析かのように扱ってしまっているということです。
さらに良くないのが、統計ソフトではオプション欄のチェックを入れるだけの操作なので中身をわからずにただ画面を操作している人はその罪深さに気付かないわけです。
さて、どうしましょうか?
そもそも論、ANOVAというのはSSを我々に都合が良いように切り分けているだけです。
ならば、主効果のSSをさらに分解すれば回帰式を崩さずに条件間比較ができるのではないか?という考え方が第一選択であるべきです。
one-way between ANOVAを例に見てみましょう。
なんか、GLMの基本形(\( Y = \beta X + \epsilon \))っぽくなった!って思った方は鋭い!
$$ \begin{bmatrix}
Y_1 \\
\vdots \\
Y_i
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
1 & x_{11} & \cdots & x_{1j} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
1 & x_{i1} & \cdots & x_{ij}
\end{bmatrix} \begin{bmatrix}
\beta_0 \\
\vdots \\
\beta_j
\end{bmatrix} + \begin{bmatrix}
\epsilon_1 \\
\vdots \\
\epsilon_i
\end{bmatrix}
$$
そうなんです。\( \mu =\beta_0X_0 \)と考えるとGLM基本形そのものになって、\( \beta X=(バラメータ行列×デザイン行列) \)なのです。
話を戻してβXを以下のように分解してみましょう。
$$ A = \beta X = \beta _1 X_1 + \beta _2 X_2 + \dots + \beta _{df} X_{df} $$
主効果Aをdfの数の項に分解すれば条件間の比較ができるってことです!(あとで図示します)
→しかし、うまく条件間比較をするためにはデザインマトリックスをうまい具合に設定する必要があります。この行列Xをどう設定するか(コーディング)が非常に重要なポイントなのです。
コーディングには、いくつか種類があります。例えば、名義尺度変換ではダミーコーディングをよく使います。
ここで使うのはANOVAのモデルを崩さないコントラストコーディングです。コントラストコーディングには以下の2つの特徴があるます。
- 全ての条件が比較に含まれていること
- 各比較が独立であること
βXは自由度の個数しか項がないのでコントラストを組む際はデータの背景にある論理的文脈を考慮する必要があります。
※逆に総当たりの比較をしなければならない場合はpost-hocで多重比較が用いられます。
説明だけじゃピンとこないと思うので、まずは、2条件の比較(independent t-test)について考えてみましょう。
t検定とは、A1、A2の2条件について以下のようなコントラストでANOVAを行うということです。Xは(1,-1)で足し合わせると0なので独立な比較です。
条件 | X |
---|---|
A1 | 1 |
A2 | -1 |
コントラストは\( X = (1, -1) \)となっていますが、逆にしても符号が逆転するだけで解析は本質的に変わりません。
これを以下の式にあてはめます。
$$ Y = \mu + \beta X+\epsilon $$
$$ \begin{bmatrix}
Y_1 \\
\vdots \\
Y_n
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
1 & 1 \\
\vdots & \vdots \\
1 & 1 \\ \hline
1 & -1 \\
\vdots & \vdots \\
1 & -1 \\
\end{bmatrix} \begin{bmatrix}
\mu \\
\beta
\end{bmatrix} + \begin{bmatrix}
\epsilon_1 \\
\vdots \\
\epsilon_n
\end{bmatrix}
$$
ここで、Xは列ベクトルですので実際には条件別にこういうことになります。
A1 | \( Y = \mu + \beta + \epsilon \) |
A2 | \( Y = \mu – \beta + \epsilon \) |
これを図で表すとこうです↓。
※ただし、上図はA1>A2、β>0、μ-β>0の場合。残差εはa1またはa2から各点へのバラツキ。
t検定は回帰分析の特殊形であることがよくわかります。
各条件は平均からβズレているということです(A1とA2でNが違うとそのままでは成り立たない)。この時の帰無仮説はβ = 0、すなわちA1 = A2 = μです。
でも実際にこれでANOVAをしようと思うと困りますよね。SS(A)はSS(βX)ということになりますが、βがわかりません。
$$ SS(total) = SS(\beta X) + SS(\epsilon) $$
でも心配しなくてもβの導出ができなくてもANOVAでは困りません(βの一般解はYにXの一般化逆行列をかけます)。回帰に慣れている方なら、デザインマトリックスを適切に設定すればβの値に関係なく同様に差の分析ができることがすぐにわかると思います。例えば、コーディングを(2,-2)と設定するとβが半分になりますが、t検定の結果には影響しません。
導出は省略しますが、二変数の積の合計SP(sum of products)を使ってSS(βX)を出します。
$$ SP(XY) = \sum XY $$
$$ SS(\beta X) = (SP(XY))^2 / SS(X) $$
これで今までと同じようにdfで割ってMSを出して、そこからF値を出すことができます。
ここまでは数字や文字が違うだけで普段のindependent t-testと全く同じ形です。ここでさらに、3条件(one-way between ANOVA)についてみてみましょう。
以下のようなコントラストを用いたANOVAを考えてみましょう。
条件 | \( X_1 \) | \( X_2 \) |
---|---|---|
A1 | 2 | 0 |
A2 | -1 | 1 |
A3 | -1 | -1 |
X1ではA1とA2&A3を比較して、X2ではA2とA3を比較します。X1もX2も縦に見るとそれぞれ総和が0なので独立な比較です。
ちなみにコントラストの組み方としてはこれ以外にも、、、
- A1⇔A2
- A3⇔A1A2
とか、
- A1A3⇔A2
- A1⇔A3
みたいなのも考えられます。
X1、X2をどう組んでそれぞれ何を比較するかは実験や解析の論理的な文脈で決めます。(※詳しく話すとトレンド分析などの話もありますが、今回は省略)
上のコントラストに戻って、これも先ほど同様にGLMの式に入れます。
$$ Y = \mu + \beta _1 X_1 + \beta _2 X_2 + \epsilon $$
$$ \begin{bmatrix}
Y_1 \\
\vdots \\
Y_n
\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}
1 & 2 & 0 \\
\vdots & \vdots & \vdots \\
1 & 2 & 0 \\
\hline
1 & -1 & 1 \\
\vdots & \vdots & \vdots \\
1 & -1 & 1 \\
\hline
1 & -1 & -1 \\
\vdots & \vdots & \vdots \\
1 & -1 & -1
\end{bmatrix} \begin{bmatrix}
\mu \\
\beta_1 \\
\beta_2
\end{bmatrix} + \begin{bmatrix}
\epsilon_1 \\
\vdots \\
\epsilon_n
\end{bmatrix}
$$
Xを各条件ごとにバラして並べてみると、、
A1 | \( Y = \mu + 2 \beta _1 + \epsilon \) |
A2 | \( Y = \mu – \beta _1 + \beta _2 + \epsilon \) |
A3 | \( Y = \mu – \beta _1 – \beta _2 + \epsilon \) |
各条件が平均からβ2つ分ズレているという形で表記されていることがわかります。df=2個に分解できたということです。
これも図に表してみると以下のようになります。※図はA1>A2>A3(すなわちβ₁,β₂>0)となった場合
t検定同様、ANOVAも回帰分析の形で解釈できます。
ANOVAを回帰分析の形で理解するのに視覚化はとても重要だと思うのですが、これらの図が教科書に載っているのを見たことないんですよね…この記事が世界唯一かもしれません。
※スミマセン、上図と下図でA2とA3が逆になってしまいました。暇があれば修正します。
これはすなわちX₁について見ると、
帰無仮説β₁=0を棄却→A1とA2&A3には差がある
と言うことが言えますし、X₂も同様に、
帰無仮説β₂=0を棄却→A2とA3には差がある
と言える、というロジックです。
あとは先ほどと一緒で、SSをだしてdfで割ってMS出してF値出すの流れです。
\( SS(total) = SS(\beta _1 X_1) + SS(\beta _2 X_2 ) + SS(\epsilon) \) |
\( SS(\beta _1 X _1 ) = (SP(X_1Y))^2 / SS(X_1) \) |
\( SS(\beta _2 X _2) = (SP(X_2Y))^2 / SS(X_2) \) |
2つのSS(βX)はコントラストに対応しているのでそれぞれF検定を行うと群間比較ができます。また、通常のANOVAはSS(A)についてF検定を行うことと同じです。
$$ SS(A) = SS(\beta _1 X_1) + SS(\beta _2 X _2) $$
これ、post-hocより遥かに美しいですよね??
結論:統計に強い現場で理由もなく”とりあえず”で多重比較を持ち出すと人権を失います。
以上、おしまい。
まだまだ2-wayだのwithinだのありますが、基本は全部同じ考え方です。そしてその先には混合モデルや階層モデルといった応用、MANOVA、ANCOVA、ANACONDA(ちがう)、、、ANOVA系のバリエーションがあなたを待っています泣。
フワッと理解が目的だったので前提条件(同じN数、等分散性、正規性)が崩れた場合の対処や統計ソフトの使用法やSCF(standard computation form)によるSS計算などなど実運用に関することは相当端折りました。なので実際に使用する方は是非教科書を読んでください。
で、素晴らしいことにめっちゃわかりやすい名著がネット上で公開されているんです!良い時代~
https://www.researchgate.net/profile/Barbara_Tabachnick/publication/259465542_Experimental_Designs_Using_ANOVA/links/5e6bb05f92851c6ba70085db/Experimental-Designs-Using-ANOVA.pdf